#04 モーツァルト版メサイア対訳・精読 【メサイア精読 第2部】
(2011.12.13)
第二部 目次
『見よ 神の子羊を』
―ヨハネによる福音書の一節から、イエスの受難、復活、昇天と、彼の弟子たちによる伝道、世界への福音の広がりの物語である第二部が幕を開けます。
No.16 Coro
「さあ見よ、子羊を」
☆洗礼者ヨハネより語られた神の子羊たるキリスト、そしてキリストの背負うもの
No.17 (Soprano2)
「彼は蔑まれ、侮辱された」
No.18 Coro
「まことに、彼は私たちの苦しみに耐え」
No.19 Coro
「彼の打ち傷によって、私たちは癒された」
No.20 Coro
「羊たちのように、私たちは散りぢりに逃げ」
☆イエスが人々の代わりに背負った痛みと苦痛、救われた人々
No.21 (Soprano1)
「彼を見る者はみな」
No.22 Coro
「彼は神が救ってくれると信じている」
☆イエスを嘲る愚かな民衆
No.23 (Soprano2)
「嘲りが彼の心を打ち砕き」
「目を留めよ、よく見よ」
☆民衆に打ち砕かれたイエスの孤独と悲しみ
No.24 (Soprano1)
「彼は命ある者の地から絶たれた」
「しかしあなたは彼を墓へ入れることを許さず」
No.25 Coro
「主のために、城門を広く開けよ」
Recitativo (Soprano2)
「どの天使に、主は言ったことがあっただろうか」
☆イエスの死と復活、父なる神と唯一の息子
No.26 Coro
「主は御言葉をたまわる」
No.27 (Soprano1)
「なんと美しいのだろう、使者たちの歩みは」
No.28 Coro
「彼らの声はあらゆる土地に響きわたり」
☆神の使者たちにもたらされる福音の広がり
No.29 (Bass)
「なぜ異教徒は怒りを燃やし荒れ狂うのか」
No.30 Coro
「全ての鎖を打ち砕き」
☆反逆に立ち上がり、イエスの教えに逆らう異教徒たち
Recitativo(Tenor)
「天に住まう方は彼らの怒りを笑う」
No.31 (Tenor)
「あなたは鉄の笏で彼らを打ち」
No.32 Coro
「ハレルヤ」
☆反逆者たちを打ち砕く神、神の勝利と永遠の統治
【第8回】
第二部から、イエスの受難という最も重大なテーマが描かれていきます。
第一部では「人々」に焦点があてられていたのに対し、第二部では「キリスト」を中心に物語が描かれます。
No.16 Coro
ヨハネによる福音書1章29節
Kommt her und seht das Lamm!
さあ見よ、子羊を
★ここでいう子羊とは神の子羊、キリストのことです。
Es trägt die tötende Last,
死の荷、世の罪を
die sünde der Welt.
担いゆく
第一部では主の栄光や人々の安らぎ、キリストの待望や彼がやってくることの喜びがテーマとなっていたのに対して、第二部では反対に人々の罪やキリストの痛み、彼の悲しみと死が主題となります。
一部と同じ命令形で始まりますが、受難を暗示させるその曲調の違いによって冒頭で大きく対比されていることがわかります。
【第9回】
この曲から最も重要なテーマである、イエスの受難が始まります。
人の罪を贖うために苦しみを受ける「主の僕」のイメージ、およそ現世的な栄華とは無縁でありながら、原罪から人を救ってくれる救世主のイメージが描かれます。
悲しみに満ちたラルゴで静かに始まって、途中怒りや苦しみが突き刺すように符点のリズムの上に乗ってくるソプラノ2のアリアがとても印象的です。
No.17 Aria (Sopran2)
イザヤ書53章3-6節
Er ward vershmähet,
彼は蔑まれ、
und verachtet,
侮辱された
von Menschen verschmäht,
人々に蔑まれ、
ein Mann der Schmerzen
痛みの人であり
und umgeben mit Qual.
苦痛に包まれている
Er gab den Schlägen seinen Rücken
彼は殴打に背をゆだね
und seine Wange der bitt'ren Feinde Wut
きびしく責めるものの怒りに、ほおを任せ
verbarg nicht die Stirn
顔を隠さずに、
vor Schmach und Speichel.
嘲りとつばを受けた
No.18 Coro
イザヤ書53章4節
Wahrlich!
まことに、
Er litt unsre Qual
彼は私たちの苦しみに耐え、
und trug unsre Schmerzen,
私たちの痛みを担った
ward verwundet für unsre Sünde,
私たちの罪のために彼は刺し貫かれ
ward zerschlagen für unsre Missetat,
私たちの咎のため打ち砕かれた
damit wir Friede hätten.
このことによって、私たちは平和を手に入れたのだ
No.19 Coro
イザヤ書53章5節
Durch seine Wunden sind wir geheilet.
彼の打ち傷によって、私たちは癒された
No.20 Coro
イザヤ書53章6節
Wie Schafe geh'n,
羊たちのように、
floh'n wir zerstreut,
私たちは散りぢりに逃げ
denn wir wallten jeder seinen eignen Weg
おのおのの道へと向かっていった
und der Herr hat nur auf ihn
そして主は彼だけに
unsre Schulden hingewälzt.
私たちの罪を負わせた
★「それぞれ自分の道へと向かっていった」とは人々が神の示す方へは行かず自分勝手に振舞った=人間の罪を指します。
「彼」が殴打され、蔑まれ、鞭打たれ、そして十字架に架けられることによって人類の罪は許されました。
次回は全編通して最も直接的な描写表現が用いられる、人々のイエスに対する嘲笑と侮辱の場面を見ていきます。
【第10回】
詩篇の言葉を借りて、キリストが十字架に架けられ人々に罵られる場面が描かれます。
「救ってもらうがよい」と全てのパートが対位法的に次々に折り重なる部分では、イエスを囲む群衆の情景が広がります。
No.21 Recitativo (Soprano1)
詩篇22章7節
Und alle, die ihn seh'n,
彼を見る者はみな、
verspotten ihn,
彼を嘲笑う。
sie sperren auf die Lippen
唇を開け放ち
und schütteln das Haupt, sagend;
頭を振って、このように言う、
No.22 Coro
詩篇22章8節
Er trauete Gott, dass der ihn befreite
「彼は神が救ってくれると信じている。
Lasst Gott befreien ihn,
救ってもらうがよい、
wenn er ihm wohlgefällt.
もし神に気に入られているというなら」
民衆に打ち砕かれたイエスの孤独と悲しみへと続きます。
【第11回】
No.22の合唱でイエスを罵る民衆が描かれた後、ソプラノ2が非常に大きな悲しみを静かに、美しいメロディーで歌い上げます。
No.23 (Soprano2) Recitetivo accompagnato
詩篇69章20節
Die Schmach bricht ihm sein Herz;
嘲りが彼の心を打ち砕き
er ist voll von Traurigkeit;
彼は悲しみに満ちている
Er sah umher ,ob's jemand jammerte;
彼は憐れむ者を求め、あたりを見たが
aber da war keiner, der da Trost dem Dulder gab.
そこには慰める者もいなかった。
★ここでテキストに用いられた「詩篇」は、強い信仰を持ちながらも周囲の人には理解されず、蔑まれる、信仰厚き者の心を歌った箇所が引用されています。
Aria
エレミヤ哀歌1章12節
Schau hin und sieh!
目を留めよ、よく見よ
Wer kennet solche Qualen,
これほどの苦しみを知るものがあるだろうか
schwer wie seine Qualen?
彼の苦しみのように重い苦しみを
アリアで歌われた「エレミヤ哀歌」は、主を軽んじたためにエルサレムの都を占拠されてしまった愚かなユダヤの民の声、都を滅ぼされ後になってからやっと後悔する民の声を表す箇所が引用されています。
メサイアではどちらも、孤独に十字架につけられたイエスの心に転用されています。
次回はイエスが死によってこの世を去り、復活する場面を見ていきましょう。
【第12回】
イエスの受難の中でも彼の死を語る部分です。台本作者ジェネンズは「命ある者の地から絶たれた」と抽象的な表現を選んでいます。
No.24 (Soprano1) Recitativo accompagnato
イザヤ書53章8節
Er ist dahin aus dem Lande der Lebenden,
彼は命ある者の地から絶たれた。
und um die Sünden seines Volkes ward er geplaget.
民の背きのために彼は苦しめられた。
イエスの死を述べた後、すぐに復活のテーマへとうつります。
ソプラノのアリアはあたたかみを感じるその曲調からイエスへの大きな愛が感じられます。
Aria
詩篇16章10節
Doch du liessest ihn im Grabe nicht zu,
あなたは彼を墓へと入れることを許さず
dass dein Heiliger Verwesung sah.
聖なる者に腐敗を見せることはない
No.25
詩篇24章7〜10節
Machet das Tor weit dem Herrn
主のために、城門を広く開けよ
und machet vor ihm die ew'gen Pforten hoch,
彼の前に、永遠の門を高く開けよ
denn der könig der Ehren ziehet ein!
誉れある王が入られる
Wer ist der könig der Ehren?
誉ある王とは誰か?
Der Herr stark und mächtig im Streite.
それは力強く、雄々しく戦われる王
Gott Zebaoth, er ist der könig der Ehren.
万軍の主。彼こそ誉ある王である
★詩篇では、主の山、聖なる山(モーセが十戒をうけたシナイ山)に入っていく主のありさまをうたっていますが、ここではイエスの復活・昇天・天国への入城のさまに転化して使っています。
Recitativo (Soprano2)
ヘブライ人への手紙1章6節
Zu welchen von den Engeln hat er je gesagt;
どの天使に、主は言ったことがあっただろうか、
du bist mein Sohn, von Ewigkeit her bist du es!
「お前は私の息子である、永遠の昔からずっと」
★このRecitativoを含めたこの後の合唱とアリアは通常歌われません。
去年の定期演奏会でもカットされました。しかし、モーツァルト版ではこのRecitativoを残すことによって、イエスが特別に尊いことが再度はっきりと描かれます。
イエスの死と復活が描かれ、彼は父なる神にとっての唯一の息子であり、他のどんなものよりも愛され尊敬されていることが示されました。
続いて、福音があらゆる土地へと広がっていく様が歌われます。
【第13回】
神の使徒たちによってもたらされる福音の広がりが歌われます。
No.26 Coro
詩篇68章11節
Der Herr gab das Wort.
主は御言葉をたまわる。
Gross war die Menge der Boten Gottes.
神の使者たちは大きな群れをなしている。
No.27 Aria (Sopran1)
ローマ人への手紙10章15節
Wie lieblich ist der Boten Schritt,
なんと美しいのだろう、使者たちの歩みは
sie kündigen Frieden uns an:
彼らは私たちに平和を告げる。
sie bringen freudige Botschaft Vom Heil,
彼らは救いの喜ばしい知らせをもたらす
das ewig ist
その救いは、永遠のものとなる
★No.6の「シオンに喜びを告げる者よ」では「イエスの誕生」が喜びに当たりましたが、ここでいう「喜ばしい知らせ」とは何でしょうか?
「彼ら=伝道師」の言葉は異教徒の国を含めたあらゆる土地へと広がり、全世界へと伝えられます。
No.28 Coro
詩篇19章4節,ローマ人への手紙10章18節
Ihr Schall ging aus in jedes Land
彼らの声はあらゆる土地に響きわたり、
und ihr Wort bis an das Ende der welt.
その言葉は神の地の果てまで届いた。
神の言葉は、二つの意味を持っています。
一つは、書くことのできない、造り主の栄光をあらわす天や地、自然です。
しかし、太陽や大空のような自然そのものでさえ、神の御意志を示すには十分ではありません。
それは、「話もなく、ことばもなく、その声も聞かれない(詩篇19章3節)」とある通り、自然が与える知識は不十分です。
自然に優るもう一つの言葉、つまり神による聖書の御言葉に、人は神の御意志をみることができるのです。
その具体的な聖書の場面として、マルコ伝16章15節-18節における、復活して弟子たちの前に現れたイエスが弟子たちに告げる言葉として考えることもできます。
マルコ伝16章15-18節
そして彼らに言われた。
「全世界に出て行って、全ての造られたものに福音を宣べ伝えよ。
信じてバプテスマを受ける者は救われる。
しかし、不信仰の者は罪に定められる。
信じる者にはこのようなしるしが伴う。
すなわち彼らは私の名で悪霊を追い出し、新しい言葉を語り、へびを掴むであろう。
また毒を飲んでも決して害を受けない。
病人に手をおけばいやされる。」
あるいはここでいう言葉とは、イエスが残した言葉の全てを指しているのかも知れません。
その"言葉"がこの世の地の果てまで伝わっていく中で、次回は反逆に狂う異教徒の怒りがバスのアリアで歌われます。
【第14回】
神の使者たちによって福音は全世界へと宣べ伝えられました。
一方でそれを受け入れることのない異教徒たちの怒り、彼らの行動とはどんなものだったのでしょうか?
イエスの福音、信仰を宣べ伝える伝道に対して、怒りを燃やし荒れ狂う人々をベースの深い歌声がまるでわがままな子を叱りつける親のような、諌めてるとも諭しているようにも思えるアリアから見ていきましょう。
No.29 Aria (Bass)
詩篇2章1-2節
Warum entbrennen die Heiden und im Zorne,
なぜ異教徒たちは怒りを燃やし荒れ狂い、
und warum halten die Volker stolzen Rat?
なぜ人々は尊大な企てを行うのか
Die Holle steht auf zur Emporung
地獄は反逆に立ち上がる、
wider den Herrn und wieder seinen Gesalbten.
主と、油を注がれた王に逆らって
★「Gesalbten=油を塗られた者」
ユダヤ王国時代に王の戴冠の儀式の際に油を塗って清めを行ったことにより、油を塗られた者=救世主=キリストということになります。
No.30 Coro
詩篇2章3節
Brecht entzwei die Ketten alle
「全ての鎖を打ち砕き
und schuttelt ab dies Joch von euch!
このくびきを振り落とせ!」
★異教徒たちの反発
No.30のこの台詞は元々こう記されていました。
「我は彼らのかせを壊し、彼らのきずなを解き捨てるであろう」
これは地に居ますもろもろの王や司教、律法主義者たちが主とキリストに向かって言った言葉です。主からのみ言葉を全て退いて、くびき(=きずな)を揺さぶり落とすであろうと言っています。
No.14、15にもあるように本来くびきとは自由を制するものですが、ここで置き換えてあるものはきずなと言う言葉です。
『彼のくびきを負い、彼に学びなさい、そうすれば心の内に安らぎを得られるでしょう』
No.14で優しく語られたくびき(=きずな)を人々は受け入れようとせず、怒りに身を任せてしまいます。
No.29,30は詩篇2章1節から3節ですが、次のレチタティーヴォはその続きの4節から引用されています。
ここで少し聖書をみてみましょう。
なにゆえ、もろもろの国びとは騒ぎたち、もろもろの民はむなしい事をたくらむのか。 地のもろもろの王は立ち構え、もろもろのつかさはともに、はかり、主とその油そそがれた者とに逆らって言う、 「われらは彼らのかせをこわし、彼らのきずなを解き捨てるであろう」と。
この言葉を受けて、神は彼らに対しどのような反応をしたのでしょうか。
次回は地上で言い放たれた人々の言葉を聞いた神々、そしてヨハネ黙示録から語られる主とキリストが治められる永遠の世界へと続きます。
【第15回】
異教徒たちが怒りを燃やして主とキリストに抗うのに対して、天に住まう主は彼らを気にとめることもなく、ただあざ笑います。
Recitativo (Tenor)
詩篇2章4節
Der da wohnet im Himmel
天に住まう方は
er lachet ihrer Wut,
彼らの怒りを笑う
der Herr, er spottet ihrer.
主は彼らを嘲る
No.31 Aria (Tenor)
詩篇2章9節
Du zerschlägst sie mit dem Eisenszepter,
あなたは鉄の笏で彼らを打ち
und du schlägst sie zu Scherben
粉々に打ち砕く
gleich des Töpfers Gefässen.
陶器のように
★「陶器のように」とはいとも簡単に壊れてしまうもののたとえです。
No.32では、伝道への弾圧をしりぞけ、全世界の王座についた神・イエスの勝利とその永遠の統治とを、「ヨハネの黙示録」から抜粋した歌詞によってたたえます。
ここでは、次々に現れては、歓喜と叫びを上げる天使たちの声が、数箇所から抜粋してあります。
No.32 Coro
ヨハネ黙示録19章6節/11章15節/19章16節
Halleluja!
ハレルヤ!
Denn Gott der Herr regieret allmächtig!
我らが主 全能の神が支配される
Der Herr wird König sein;
主は王となられ
Das Reich der Welt ist nun
この世の王国はいまや
des Herrn und seines Christus.
主と、キリストのものとなる
Und er regiert von nun an und ewig
そして彼が永遠に治められる
Herr der Herrn, der Götter Gott!
主のなかの主、神のなかの神
二部では受難を乗り越え復活を果たしたキリストの様子が描かれていました。
次回以降見ていく三部では、死を克服した人々と永遠の生命を与えるキリストを讃える言葉が綴られます。